トレード戦略の核となるのは、値動きの“勢い”をどう捉えるかです。
この“勢い”を定量的に表すのが、今回のテーマであるモメンタム系の特徴量です。
前回はリターン系を取り上げましたが、リターンが「結果の量」だとすれば、
モメンタムは「継続する流れやスピード」のようなもので、より“未来志向”の指標と言えます。
🔍 RSI ― クオンツで使う理由とその工夫
RSI(Relative Strength Index)はモメンタムの代表的な指標のひとつです。
一見シンプルなこの指標、実は私も頻繁に使います。
✅ なぜクオンツでRSIを使うのか?
理由 | 解説 |
---|---|
✅ 安定性 | 上昇・下落の強さを平滑化するのでノイズに強く、堅実に勢いを示す |
✅ 軽量で拡張性高い | 派生特徴量が作りやすく、複数指標と組み合わせやすい |
✅ 他と非相関 | 他のモメンタム指標(ROCやMACD)と計算構造が異なり差別化可能 |
📌 RSIの“そのまま利用”は主流ではない
「RSIの値をそのまま使う」ことはむしろ少数派なようです。
代わりに重視されるのは:
加工方法 | 目的 |
---|---|
RSIの傾き(SLOPE) | モメンタムの加速を測る |
RSIの変化率 | トレンド強度の変化を察知 |
RSIのZスコア化 | 相対的な過熱・過冷の動的判定 |
他指標との組み合わせ | モメンタム一致やフィルター機能として活用 |
➡︎ RSIは“構造的に変化を分析”してこそ、価値が生まれる指標なのです。
✅ RSIの順張り的な使い方:50ブレイク
- RSIが50を下から上へ突破 → 上昇勢いが支配的
- RSIが50を上から下へ割り込む → 弱気トレンド転換
この「モメンタムのスイッチ」を捉える手法は、一般的なトレードでも通用する順張りロジックとして活用されています。
📈 RSIの変化率がより重要視される理由
クオンツではRSIの絶対値よりも、その変化スピードや傾きを重視する傾向にあります。
▶ 例:
- RSIが日々加速して上昇 → モメンタムの強まり
- RSIが高値圏で横ばい → 勢いが消えかけているサイン
これらは「RSIの1階差(傾き)」や「2階差(加速度)」で定量化できます。
🔁 ダイバージェンス ― 勢いの“ウソ”を見抜く
RSIが高値更新せず、価格だけが上昇しているとき――
それは「本物の上昇ではない」というシグナルになることがあります。
この価格とモメンタムの食い違いが「ダイバージェンス」です。
反転や天井・底のシグナルとして、裁量・クオンツの両方で使われる重要な概念です。
📌 RSIが使われない or 弱まるケース
万能に見えるRSIも、以下のケースでは使われないことがあります。
ケース | 説明 |
---|---|
極短期(1分足) | ノイズに敏感になり、シグナルの信頼性が低下 |
トレンド乏しい通貨ペア | RSIの意味が薄れる(常に50±で動く) |
ボラティリティ主導戦略 | 勢いではなく振れ幅に着目するため、モメンタム指標の出番が少ない |
➡︎ RSIは「骨格」を形成する信頼性の高い指標ですが、用途と時間軸には相性があることを意識するのが大事です。
🔍 一般にはあまり知られていない、モメンタム系特徴量
▶ モメンタム加速度(2階差分)
- リターンの1階差(=モメンタム)ではなく、
- モメンタムの変化の変化(加速 or 減速)を見る
→ トレンドが“加速中”なのか“息切れ”しているのかを数値化
✅ 定義:モメンタム加速度とは?
一般的に、モメンタム加速度とは「2階差分(2次微分的な考え方)」を意味します。
式:(RSI_t – 2×RSI_{t-1} + RSI_{t-2})
読み替えると:
- 正の値:RSIの上昇スピードがさらに加速している(買い圧力の急増)
- 負の値:RSIの上昇が減速 or 下降に転じ始めている(モメンタムの陰り)
- ゼロ付近:一定の勢いで継続中(勢いの安定)
✅ なぜ使うのか?
効果 | 解説 |
---|---|
✅ 反転兆候の早期発見 | RSIの変化が「減速し始めた瞬間」を捉える |
✅ トレンドの成熟判断 | 勢いがピークアウトしてきたかを定量的に把握できる |
✅ 順張り・逆張りの判断補助 | 加速度がマイナスに転じたら逆張り準備、プラス継続なら順張り維持 |
✅ 騙し除去のフィルター | RSIだけだと過熱と誤判定する局面でも、「減速しているか」でフィルター可能 |
✅ 実務での具体的な使い方
- RSIの傾き(SLOPE) > 0 かつ 加速度も > 0
- 上昇モメンタムが強く、さらに加速 → 強気シグナル
- SLOPE > 0 でも加速度 < 0
- モメンタムは上昇だが減速中 → トレンド終盤か反転の兆し
- SLOPE < 0 かつ 加速度 > 0
- 一時的な押し目や下落反転の兆候 → 逆張り検討ポイント
✅ RSI以外にも使える
この「加速度」という概念は、価格・MACD・移動平均・他のモメンタム指標にも応用可能です。
- 価格の加速度(= ボラティリティの急変)
- 移動平均の加速度(トレンド転換シグナル)
- MACDの傾きの2階差(勢いのピーク)
✅ 注意点(落とし穴)
- ノイズが大きくなりやすいため、過度に短期ではなく「3日~5日平均の2階差」など平滑化が必要
- トレンドが少ない相場やボラが低いときは過剰に反応して誤判断を誘発することも
▶ 上昇一致率・陽線率(例:20日中15日が陽線)
- 一定期間のうち、陽線(終値>始値)の割合を出す
- 方向性の一貫性の強さを表す
→ 20日中15日陽線なら強モメンタム、5日なら弱いか調整局面
⚠️ モメンタムでも未来リークに要注意
RSIやROCなどの多くのモメンタム指標は「当日の終値」を使って計算されるため、
寄付きでエントリーするような戦略では未来リークになる危険性があります。
❌ ありがちな未来リーク例:
- RSIをその日中の終値で計算して寄付きでエントリー
- 当日の高値・安値を使ったモメンタム指標を仕掛け判断に利用
これらはすべて、“まだその情報は知らなかったはずなのに使ってしまった”ことになります。
💥 私もよくやる“落とし穴”…
よくあるので何度も言いますが…
かつて「これは完璧なモデルだ!」と思っていた戦略も、
最終的にテスト段階で「RSIがその日の終値を使っていた」と判明し、すべてやり直し…という苦い経験があります。
モメンタムは未来を予測する力を持ちますが、「その瞬間に見えていた情報」で構築することが絶対条件です。
✅ Shiftの考え方で未来リークを防ぐ
- 「今日のRSI」は今日の終値が必要 → 今日中には使えない
- よって、「昨日のRSIで今日の判断」=shift(1)が必要
この「確定したタイミングで使う」という考え方を持つだけで未来リークは回避できます。
📋 モメンタム系特徴量まとめ
特徴量名 | 解説 |
---|---|
RSI | 最も基礎的なモメンタム指標。50ブレイクで順張り可 |
RSI変化率・加速度 | 値より変化の速さ・加速を見ることでトレンド初動を補足 |
ROC(Rate of Change) | 一定期間の価格変化率 |
陽線率・一致率 | 方向性の一貫性を数値化(20日中の陽線比など) |
ダイバージェンス | モメンタムと価格のズレ → 反転兆候 |
RSIのZスコア変換 | 状況に応じた動的な過熱評価 |
RSIと他指標の一致 | MACDや移動平均とのコンビネーションで強シグナル抽出 |
✅ 結論:RSIは“万能”ではないが“骨格”となる指標
- RSIはそのまま使うよりも、変化率・Zスコア・他指標との組み合わせで活きる
- 短期や特殊条件では使わない方が良い場面もあるが、汎用性の高い“勢いの骨格指標”であることは間違いない
- モメンタム分析において未来リークの排除は最優先であり、shiftなどの時系列処理の理解は極めて重要
✅ まとめ:モメンタムは「勢いの裏側」を読む鍵
モメンタム系特徴量は、値動きの“中身”を数値で可視化する道具です。
単なる価格の上下では見えない、「どれくらいの勢いが続いているか」「それが加速しているか」を捉えることで、仕掛けの精度が格段に高まります。
そして、どれだけ有効な特徴量でも、「未来リーク」を含んでいればそれは実戦で使えません。
“その時点で見えていたか?”を意識した特徴量設計が、戦略を“プロ仕様”にする第一歩です。
次回は「ボラティリティ系特徴量」に進みます。
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