トレードにおいて「価格の動きの激しさ(=ボラティリティ)」は、エントリー・イグジットの判断やリスク管理に直結します。特にクオンツの世界では、ボラティリティは“戦略の土台”とされるほど重視され、非常に多くの指標や加工がなされています。
ここでは、ボラティリティ系の代表的な特徴量から、どのように活用しているかまでを解説します。
✅ 代表的なボラティリティ系特徴量
▶ ATR(Average True Range)
- 高値・安値・前日終値の差をベースに、1日の価格の変動幅を平均化した指標。
- 値が大きいほど「その銘柄の値動きが荒い」、小さいほど「安定している」と判断。
- エントリー判断(例:ATRが拡大したらトレンドが出る)や、ロスカットの幅決定に使われる。
- 「ATR比率(ATR ÷ 終値)」に変換し、スケールの違う銘柄間で比較可能にすることも多い。
▶ 標準偏差(σ)
- 一定期間の価格やリターンの“散らばり具合”を数値化。
- ボリンジャーバンドの計算などにも用いられ、価格が一定の範囲を超えたときに逆張りや順張りのトリガーとして使用。
- 特に横ばい局面の“ブレイクアウト”を狙う戦略でよく用いられる。
▶ HV(Historical Volatility)
- 日次リターンの標準偏差を年率換算したもの。
- 株や先物などで“どの程度ブレるか”を正確に把握するために、投資戦略のベースにされる。
- IV(Implied Volatility:予想ボラティリティ)との比較で「割安/割高」判断に用いるケースもある。
🔍 良く使われる応用ボラティリティ特徴量
▶ ATRの変化率(ATRの傾き、Zスコア化)
- 単に“高い”か“低い”ではなく、「最近上がっているか」「急減しているか」を見る。
- Zスコア化や傾きの計算により、トレンドの発生点・転換点を可視化することが可能。
- 実務では「トレンド発生の兆候検出」として多用される。
▶ ボラティリティ比(例:現在のHV ÷ 過去20日平均HV)
- 今の相場が“通常と比べて荒れているか静かなのか”を判断。
- 値が大きければ警戒ゾーン、逆に小さければエントリー好機とする戦略もある。
- トレンド追随系では、急拡大をブレイクアウトシグナルと見ることも。
▶ スプレッド型ボラティリティ(例:銘柄Aと銘柄BのHV差や比)
- 相関性のある2つの資産間で、ボラティリティの“偏り”を評価。
- 片方だけが異常に荒れている場合、裁定取引やペアトレードのシグナルに。
- 実務では、NT倍率(日経225とTOPIX)やETF/先物の裁定などで頻繁に使われる。
▶ 終値とボラティリティの関係性
- 「価格が急騰しているのにボラティリティが落ち着いている」などの乖離がサインになる。
- こうした関係性を「スケーリングされたボラティリティ」や「リターン÷HV」のような形で表現するケースも多い。
- 価格とボラティリティの非対称な動きが転換点を示すと捉える事も多い。
▶ ボラティリティ収束スピード(減衰率)
- 急騰・急落の後に、どれだけ早くボラティリティが収束したかを計測。
- トレンド終了やリバウンドの兆候として注目される。
- 指数平滑化や移動平均との乖離率を利用して定量化する。
▶ HVとIVの差(ボラティリティアービトラージ)
- 実現ボラティリティ(HV)と市場が織り込む将来ボラ(IV)の乖離を利用する戦略。
- 特にオプション市場との連動が強い先物などで重視される。
- HV > IV なら市場がリスク過小評価している可能性などを示唆。
- 実際の取引では、IVが過大評価された状態を売りで狙う「ショート・ボラティリティ戦略」などに活用される。
▶ RSI ÷ ATR、リターン ÷ HV(スケーリング応用)
- 「勢い」や「価格変動」をボラティリティで割ることで、過熱感や逆張りポイントを判断。
- RSIが高くてもATRが大きければ“ただのノイズ”かもしれない、逆にATRが低ければ“実質的なトレンド”かもしれない。
- 実務では、「動きの強さがボラに見合っているか?」を測るフィルターとして活用される。
- リターン ÷ HV は“効率的な動き”かどうかの評価指標として使われることもある。
✅ ボラティリティ指標をどう使うか?
ボラティリティ指標は、戦略構築や売買判断に幅広く活用されます。以下に、使い方の例をいくつか挙げます:
📌 1. エントリータイミングの判断に使う
- 「ATRが急拡大=相場に動きが出始めた」なら、ブレイクアウト戦略で買いを狙う。
- 「HVが低下=レンジ相場継続」なら、逆張り戦略やオプション売り戦略が有効になるケースも。
📌 2. ロスカット幅の調整
- ATRを参考に「今日の値動き幅」を計測し、その数値の1.5〜2倍程度を損切り幅に設定する。
- 銘柄の特性に合わせて柔軟に対応でき、過剰な損切りや早すぎる損切りを避けやすい。
📌 3. ポジション量のコントロール
- ボラティリティが高いときはポジションを小さく、低いときは少し多めに取るなどの「リスクパリティ調整」に活用。
- 安定性を重視する実務家やヘッジファンドでも定番の手法。
📌 4. トレンド転換の予兆をとらえる
- ボラティリティが急騰したあとに急減する動きは、「イベント終了」や「材料出尽くし」などのサインになることがある。
- 上記のような“減衰”に注目したアルゴリズムも構築されている。
✅ まとめ
ボラティリティ系の特徴量は、「どのくらい動くか」「いつ荒れるか」を定量化し、リスク管理やエントリーの裏付けに使われます。単なる数値としての大小ではなく、“変化率”“平均との乖離”“銘柄間の比較”“将来予測”などに着目しており、Zスコアや傾きといった加工が頻繁に行われます。
さらに、ポジション量や戦略選択にも密接に関わる「戦術判断の基盤」として、ボラティリティは非常に重要な要素です。
次回は、「ろうそく足の構造系特徴量」について解説します。